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退職代行を使うと損害賠償を請求される?条文をもとに一般論を整理

2026-09-04 執筆

「勝手に辞めたら損害賠償を請求するぞ」——退職を切り出したときに、こう言われるのが怖くて動けない。そんな相談は少なくありません。この記事では、退職代行を使って辞めた場合の損害賠償について、条文をもとにした一般的な考え方をケース別に整理します。

結論——「請求されること」と「認められること」は別

先に結論を書きます。会社が損害賠償を請求すること自体は、誰でも言えます。口で「賠償させる」と言うのも、書面を送るのも、法律上それを止める仕組みはありません。しかし、それが裁判で実際に認められるかどうかはまったく別の話です。

そして日本の法律には、退職に絡む賠償請求に対していくつものブレーキがかかっています。まずはその根拠を確認しましょう。

根拠1: 労働基準法16条——賠償額をあらかじめ決めておくのは禁止

労働基準法16条は、労働契約の不履行について違約金を定めたり、損害賠償額をあらかじめ決めておいたりすることを禁じています。「途中で辞めたら罰金10万円」「1年以内の退職は違約金50万円」といった取り決めは、就業規則や誓約書に書いてあっても法律上は無効と考えられます。

ここで押さえておきたいのは、この条文が禁じているのは「額をあらかじめ決めておくこと」だという点です。実際に会社に損害が生じ、それが労働者の責任だと立証された場合の請求まで、一律に封じているわけではありません。

根拠2: 民法627条——退職は労働者の権利

期間の定めのない雇用(正社員など)については、民法627条により、退職の意思を伝えてから2週間の経過で雇用契約は終了します。会社の承諾は要件ではありません。つまり、法律に沿って辞めること自体は権利の行使であり、権利を使ったこと自体を理由に賠償責任が生じるという考え方にはなりません。

「就業規則に3か月前申告と書いてある」という反論を受けることもありますが、民法627条との関係で、就業規則の定めがそのまま優先されるとは限りません。この点は解釈に幅があるため、実際に争いになりそうな場合は個別に専門窓口へ相談するのが安全です。

ケース別に見る——実際にどう位置づけられるか

不安になりやすい場面を、法律上の一般的な位置づけとあわせて整理します。

場面一般的な位置づけ
退職代行を使って辞めた意思を伝える方法の違いにすぎず、それ自体が賠償の理由になるとは考えにくい
引き継ぎをせずに辞めた引き継ぎ義務を直接定めた法律はない。会社の具体的な損害と因果関係の立証が必要になる
繁忙期・人手不足の時期に辞めた「困る」ことと法律上の損害は別。人員配置は会社側の責任領域とされるのが一般的
連絡を絶ったまま出社しなくなった退職の意思表示が届いていない状態で、無断欠勤の扱いになりうる。手続きとして最もリスクが高い
有期雇用(契約社員など)を期間途中でやめた民法628条により、やむを得ない事由があれば解約できるが、その事由が一方の過失で生じた場合は賠償責任の余地が残る
研修費・資格取得費の返還を求められた労基法16条との関係で争点になりやすい領域。費用の性質(会社負担か貸付か)によって結論が分かれる

この表で目立つのは、リスクが高いのは「退職代行を使ったこと」ではなく「連絡を絶ったこと」だという点です。退職代行は、本人に代わって退職の意思を会社へ届ける仕組みなので、意思表示が宙に浮いた状態にはなりません。この違いは退職代行と「バックレ」の違いで詳しく整理しています。引き継ぎについての考え方は引き継ぎをせずに辞めた場合にまとめました。

「賠償請求する」と言われたときにやること

実際に会社から賠償をほのめかされた場合、次の3点を意識してください。

1. その場で同意しない。金額を認めたり、支払いの念書にサインしたりしないことが第一です。いったん合意してしまうと、後から覆すのが難しくなります。

2. 記録を残す。言われた日時・相手・内容をメモし、メールや書面は保管します。強い言葉での引き止めが続く場合の考え方は強引な引き止めへの対応で整理しています。

3. 誰が対応できるのかを確認する。ここで効いてくるのが、依頼先の運営主体です。

運営主体によって対応できる範囲が違う

退職代行の運営主体は民間企業・労働組合・弁護士の3つに分かれ、賠償の話が出てきたときの対応範囲が大きく異なります。

運営主体賠償の話が出たときの対応
民間企業退職意思の伝達のみ。会社との交渉はできない(弁護士法72条の非弁行為にあたるおそれがあるため)
労働組合団体交渉権に基づき、有給や未払金などの労働条件についての交渉が可能。訴訟等の法的手続きは不可
弁護士交渉に加え、実際に請求されたときの訴訟等の法的手続きまで対応できる

会社から賠償を持ち出される可能性が具体的に見えている場合、伝達しかできない民間サービスに依頼すると、話が動き出した段階で対応が止まってしまいます。3類型の違いは労働組合・弁護士・民間の比較で表にまとめました。弁護士が運営するサービスの料金や対応範囲は弁護士運営の退職代行一覧で、公式サイトの確認値をもとに料金順で掲載しています。

不安が先に立つときの考え方

実務では、賠償請求という言葉が退職を思いとどまらせるための圧力として使われることもあります。だからこそ、言われた内容をそのまま受け止めるのではなく、「何の損害について、どの根拠で請求しているのか」を切り分けて考えることが大切です。金額の根拠が示されないまま話が進む場合は、その時点で公的な相談窓口(労働基準監督署の総合労働相談コーナーなど)に事実関係を持ち込むという選択肢もあります。

本記事は条文をもとにした一般論の整理であり、個別の事案でどう判断されるかは契約内容・経緯・会社側の主張によって変わります。実際に損害賠償を請求された、または請求をほのめかされている場合は、弁護士や労働基準監督署の総合労働相談コーナーなど、専門の窓口にご相談ください。