パワハラが原因で退職代行を使うとき|辞めることと慰謝料請求は分けて考える
2026-09-17 執筆
「パワハラをしてくる上司に、退職を切り出すのが怖い」。この理由で退職代行を検討する人がいます。結論を先に書くと、退職の意思を伝えるだけなら運営主体を問わず依頼できます。パワハラへの慰謝料まで求めたい場合は、弁護士への相談が必要です。この記事でわかるのは次の3点です。
- 辞めることと慰謝料請求を分けて考える理由
- 目的ごとに依頼できる運営主体
- 退職前に残しておきたい記録と、費用をかけずに使える相談先
目的別に変わる依頼先
パワハラが絡む退職では、会社に何を求めるかで依頼先が決まります。目的を3つに分けると次のとおりです。
| 目的 | 依頼できる運営主体 | 理由 |
|---|---|---|
| 会社と連絡を取らずに辞めたい | 民間企業・労働組合・弁護士 | 退職意思の伝達は3類型すべての対応範囲 |
| 有給消化や未払いの給料も話し合いたい | 労働組合・弁護士 | 交渉には団体交渉権か弁護士資格が必要 |
| 慰謝料を請求したい | 弁護士 | 損害賠償の請求や訴訟は法律事務にあたる |
民間企業が運営するサービスは、退職の意思を伝える範囲にとどまります。報酬を得て法律に関わる交渉をすると、弁護士法72条が禁じる非弁行為にあたるおそれがあるためです。労働組合は交渉ができますが、訴訟などの法的手続きはできません。3類型の違いは労働組合と弁護士、民間は何が違う?で比べています。
退職と慰謝料請求は別の手続き
退職と慰謝料請求は、法律上の根拠が異なる別々の手続きです。期間の定めのない雇用なら、民法627条により申し入れから2週間で雇用が終わります。パワハラがあったかどうかや、会社の同意は関係ありません。
慰謝料のほうは、不法行為(民法709条)や使用者責任(民法715条)などを根拠に損害の賠償を求めるものです。パワハラにあたる事実と損害は、請求する側が示す必要があります。
2つを分けると、急ぐ手続きと時間をかけてよい手続きを切り分けられます。心身の負担が大きいなら、退職を先に進める選択ができます。慰謝料を請求するかは、辞めたあとに弁護士と相談して決めることもできます。ただし請求できる期間には上限があります。民法724条・724条の2では、損害と加害者を知った時から原則3年です。人の生命や身体を害した場合は5年になります。
パワハラにあたるかの3要素
職場のパワハラには法律上の定義があります。労働施策総合推進法30条の2と厚生労働省の指針は、次の3つをすべて満たす言動をパワハラとしています。
- 優越的な関係を背景とした言動
- 業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの
- 労働者の就業環境が害されるもの
同条は事業主に、相談体制の整備などの防止措置を義務づけています。個々の言動が3要素に当てはまるかは、事実関係によって判断が分かれます。自分で結論を出せないときは、後半で紹介する公的な窓口で整理できます。
退職前に残しておきたい記録
慰謝料を請求するか決めていない段階でも、記録は在職中に集めておきます。退職代行に依頼したあとは出社しないため、あとから集め直すのは難しくなります。
- 日時と内容のメモ——いつ・どこで・誰に・何を言われたかを、その日のうちに書き残します
- メールやチャットの画面——自分あてに届いたメッセージを、日付が見える形で保存します
- 医療機関の診断書——心身の不調で受診した場合、通院の記録も損害を示す材料になります
- 社内で相談した記録——人事や相談窓口に伝えた日付と、会社の対応を控えておきます
保存の範囲は、自分が受け取ったやり取りにとどめます。顧客情報や社外秘の資料を私用の端末へ移すと、就業規則違反を問われるおそれがあります。
失業保険の離職理由との関係
パワハラが理由の退職は、失業保険で「特定受給資格者」に当たる場合があります。ハローワークの判断基準には、上司や同僚からの故意の排斥や著しい冷遇、嫌がらせによる離職が含まれています。
該当するかは、会社が書いた離職理由だけでは決まりません。ハローワークが本人の申し立てと資料を確認して判断します。離職票の離職理由に納得できないときは、手続きの窓口で異議を伝えられます。先ほどの記録は、この場面でも判断材料になります。受給までの流れは退職代行で辞めたら失業保険はどうなる?で整理しています。
弁護士運営サービスの料金
慰謝料の請求まで視野に入れるなら、依頼先は弁護士が運営するサービスです。当サイトのデータベースに登録している5件を、料金の安い順に並べました。
| サービス | 公式サイトの料金 | 補足 |
|---|---|---|
| フォーゲル綜合法律事務所(円満退職代行) | 22,000円(ライトプラン) | あんしんプラスは55,000円 |
| 弁護士法人みやび | 27,500円〜77,000円(基本プラン) | 金銭請求は回収額の20%+税 |
| 公務員の退職代行 | 55,000円 | 公務員向け・年休消化込み |
| 弁護士ビーノ(退職ビーノ) | 公式サイトで金額を確認できず | — |
| 弁護士法人ガイア総合法律事務所 | 公式の退職代行ページに記載なし | 相談時に確認 |
料金は2026-08-06時点の公式サイト確認値です。ガイアのみ2026-09-14に確認しました。慰謝料の請求を追加で依頼した場合に費用がどう変わるかは、各事務所へ確認してください。対応範囲をそろえた一覧は弁護士運営の退職代行で見られます。
依頼時に伝えておくこと
申し込みの際は、パワハラが退職理由であることを業者に伝えます。加害者の上司と直接やり取りしたくない場合は、会社からの連絡を人事部あてにしてほしいと希望を伝えられます。どの部署から連絡するかを最終的に決めるのは会社です。
費用をかけずに使える相談先
退職代行に依頼する前に、無料の公的窓口で状況を整理する方法もあります。
- 総合労働相談コーナー——都道府県労働局や労働基準監督署に設けられ、パワハラを含む職場のトラブルを無料で相談できます
- 法テラス——収入などの条件を満たすと、弁護士による無料の法律相談を受けられます