退職代行を使うと懲戒解雇になる?就業規則と法律の一般論をQ&Aで整理
2026-08-29 執筆
「退職代行なんて使ったら、会社に懲戒解雇にされるんじゃないか」——退職代行を検討する人からよく出てくる不安のひとつです。懲戒解雇という言葉には強い響きがあり、退職金や次の転職への影響も気になるところでしょう。
この記事では、そもそも懲戒解雇とは何か、退職代行の利用がその理由になりうるのか、就業規則の「1か月前に申し出ること」というルールとの関係はどうなるのかを、法律の一般論としてQ&A形式で整理します。特定の業者をおすすめするものではなく、判断材料をそろえることを目的としています。
Q. そもそも懲戒解雇とは何ですか?
A. 懲戒解雇とは、会社が労働者に対して行う懲戒処分のうち、もっとも重いものです。就業規則に定められた重大な違反行為(横領・重大な経歴詐称・長期の無断欠勤など)があった場合に、会社が一方的に雇用契約を終了させる処分を指します。
重要なのは、会社が「気に入らないから」という理由で自由にできる処分ではないという点です。労働契約法15条は、懲戒が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合は無効になると定めています。つまり懲戒解雇には、(1)就業規則にその事由が定められていること、(2)実際の行為がそれにあたること、(3)処分として重すぎないこと、といったハードルがあると一般には説明されます。
Q. 退職代行を使ったこと自体が、懲戒解雇の理由になりますか?
A. 一般論としては、退職代行を利用したという事実そのものを懲戒事由として定めている就業規則は考えにくく、それだけを理由に懲戒解雇が成立するとは考えにくいと説明されます。
理由は2つあります。ひとつは、退職代行は「本人に代わって退職の意思を会社へ伝える」サービスであり、退職の意思表示自体は本人が行っているという点です。もうひとつは、退職が労働者の権利として法律に定められている点です。民法627条は、期間の定めのない雇用について「各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる」とし、申入れの日から2週間の経過で雇用が終了すると定めています。権利として認められた退職の意思を、誰を通じて伝えたかという伝達方法の違いが、それ自体で重大な非違行為になるとは考えにくい、という整理です。
ただしこれはあくまで一般論であり、実際にどう扱われるかは会社の対応や個別の事情によって変わります。断定はできません。
Q. 就業規則に「退職は1か月前に申し出ること」とあります。破ったら処分されますか?
A. この点は誤解が多いところです。就業規則に予告期間の定めがあること自体は珍しくありませんが、民法627条の2週間ルールとの関係については「法律の定めが優先される」という考え方が一般的に説明されています。会社のルールとして1か月前の申し出を求めていても、それを守らなかったことが直ちに懲戒解雇にあたる重大な違反と評価されるとは考えにくい、という整理です。
とはいえ、引き継ぎがまったくできない状態で会社に具体的な損害が出た場合など、状況によって話が変わる可能性は残ります。「就業規則を破っても何の問題も起きない」と言い切れるものではない、という点は押さえておいてください。
Q. 出社せずに辞めると「無断欠勤」で懲戒解雇になりませんか?
A. ここが実は一番の分かれ目です。何も伝えずに出社しなくなる、いわゆる「バックレ」は、会社から見れば無断欠勤です。就業規則に「正当な理由のない長期の無断欠勤」を懲戒事由として定めている会社は実際にあり、この状態が続けば処分の話に発展する可能性は否定できません。
一方、退職代行を使う場合は、業者を通じて「退職します」という意思が会社に伝わります。意思表示があった以降は、原則として無断欠勤ではなく退職手続きの期間という位置づけになります。有給が残っていればその消化にあて、足りない分は欠勤の扱いを会社と調整する、という流れが一般的です。
つまり「退職代行を使うから懲戒解雇が近づく」のではなく、むしろ意思表示を残さないまま連絡を絶つほうがリスクが大きい、という関係になります。この違いは退職代行と「バックレ」は何が違う?でも整理しています。
Q. 懲戒解雇になると、退職金はもらえなくなりますか?
A. 退職金は法律で必ず支払いが義務づけられているものではなく、会社の退職金規程があってはじめて発生する性質のものです。規程の中に「懲戒解雇の場合は支給しない、または減額する」という定めが置かれていることはあります。
ただし前提として、懲戒解雇そのものが前述のハードルを満たしている必要があります。会社が「懲戒解雇扱いにする」と口頭で言ったからといって、そのとおりに法的評価が確定するわけではありません。退職金の不支給や減額をめぐって争いになる場合は、金銭についての話し合いになるため、対応できる相手が限られてきます(後述)。
Q. 離職票や転職先への影響はありますか?
| 気になる点 | 一般的な考え方 |
|---|---|
| 離職票の離職理由 | 会社が記載するが、本人が内容を確認し、認識と違えばハローワークに異議を申し立てる手続きがある |
| 転職先に伝わるか | 会社が前職の退職経緯を第三者へ無断で伝えることは、個人情報の取り扱い上も一般には想定されていない |
| 履歴書への記載 | 退職の事実は書くが、どのような形で退職手続きを進めたかまで書く欄は通常ない |
離職理由の欄は、失業給付の受給条件に関わる部分でもあります。届いた書類の記載が自分の認識と食い違う場合は、そのままにせず確認しておくのが無難です。
Q. 会社から「懲戒解雇にする」と言われたらどうすればいいですか?
A. まず、その言葉だけで処分が確定するわけではないことを押さえてください。そのうえで、やり取りの記録(メール・書面・通知の写し)を残しておくことが実務上は重要になります。
そして、ここから先は「会社との話し合い」の領域に入ります。退職代行の運営主体によって、対応できる範囲がはっきり分かれる部分です。
| 運営主体 | この場面でできること |
|---|---|
| 民間企業 | 退職意思の伝達のみ。処分や退職金についての交渉はできない |
| 労働組合 | 団体交渉権に基づき、有給消化や未払金などについて会社と交渉ができる |
| 弁護士 | 交渉に加えて、訴訟などの法的手続きまで対応できる |
弁護士でない者が報酬を得て法律に関わる交渉を行うことは、弁護士法72条が禁じる非弁行為にあたるおそれがあります。そのため民間企業が運営するサービスは、処分の当否や退職金の支払いについて会社と話し合うことはできません。処分をめぐって争う可能性を見込むなら、弁護士が運営する退職代行の一覧から、対応範囲と料金を確認して絞り込むのが現実的です。有給や未払金の交渉までで足りるなら、労働組合が運営する退職代行の一覧も選択肢になります。運営主体ごとの違いは労働組合と弁護士の違いで詳しく整理しています。
Q. 結局、依頼する前に何を確認しておけばいいですか?
A. 懲戒解雇の不安が頭にある場合、次の点を手元で整理しておくと、業者に相談する際の話が早くなります。
ひとつめは、就業規則の懲戒に関する条文と、退職の予告期間の定めを確認すること。手元になければ、社内で閲覧できる場所を思い出せる範囲で構いません。ふたつめは、直近の欠勤・連絡状況を時系列で書き出すこと。いつから出社していないか、どの時点で誰に何を伝えたかが分かると、無断欠勤の扱いになる期間の見通しが立てやすくなります。みっつめは、有給の残日数と退職金規程の有無です。
そのうえで、自分が「伝えてもらえれば十分」なのか、「交渉が必要になりそう」なのかを見極め、対応できる運営主体を選ぶ——という順番になります。