退職代行は違法?弁護士法72条と非弁行為の論点を整理
2026-08-06 執筆
「退職代行ってそもそも違法じゃないの?」——この疑問はよく耳にします。結論からいえば、退職代行サービス自体が違法ではありません。ただし、どの業者に何を依頼するかによって、「違法のおそれがある行為」に踏み込んでしまうケースがあります。この記事では、弁護士法72条と民法627条を軸に、退職代行の違法性をめぐる論点を整理します。
なお、民間・労働組合・弁護士という3つの運営主体の基本的な違いについては退職代行とは?3つの運営主体の違いで解説しています。
まず前提:退職自体は法律で認められた権利
退職代行の違法性を考える前に、退職という行為そのものを整理しておく必要があります。民法627条は、期間の定めのない雇用契約(正社員など)について次のように定めています。
「当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。」
つまり、退職は労働者の権利として法律で保障されており、会社が「認めない」と言っても、申し入れから2週間が経過すれば雇用関係は終了するのが通説です(就業規則で1か月前などと定めているケースでも、民法が優先されるという見解が一般的ですが、個別の状況によって異なる場合もあります)。
退職代行はこの「申し入れ」を本人に代わって行うサービスです。代わりに伝えること自体を禁じる法律はなく、サービスの枠組みとしては適法と考えられています。
問題となるのは「交渉」——弁護士法72条(非弁行為)とは
違法性の議論で必ず登場するのが、弁護士法72条です。条文の要旨はこうです。
「弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件・非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。」
この条文が禁じているのは「非弁行為」と呼ばれるもので、弁護士資格のない者が報酬を得る目的で法律事務(交渉や法的手続き等)を業として行うことです。違反した場合、2年以下の懲役または300万円以下の罰金が定められています(弁護士法77条)。
退職代行の文脈でいえば、民間業者が「有給休暇を取らせてほしい」「退職金をきちんと払ってほしい」「残業代の未払いを清算してほしい」といった事項について会社と交渉することが、非弁行為に該当するおそれがある、というのが法律上の論点です。
「伝達」と「交渉」の境界線
ここで重要になるのが、「伝達」と「交渉」の区別です。
- 伝達:「◯◯さんは△日付で退職を希望しています」と会社に事実を伝えること
- 交渉:「有給を◯日間消化させてほしい」「未払い残業代を払ってほしい」などを会社と話し合い、合意を形成しようとすること
民間企業の退職代行が適法に行えるのは、あくまで「伝達」の範囲内とされています。この境界線は実務上あいまいになりやすく、業者によっては「交渉もします」と広告しているケースもあります。しかし、弁護士資格のない民間業者が交渉を行うことは、非弁行為にあたるおそれがあると指摘されています。
「交渉もできる」とうたっている民間業者を選ぶ場合は、この点を理解した上で判断する必要があります。
労働組合は「交渉」ができる理由
労働組合が運営する退職代行サービスは、弁護士法72条の問題を回避する形で「交渉」に対応できます。その根拠は、日本国憲法28条と労働組合法に定められた「団体交渉権」です。
労働者が加入した労働組合は、使用者(会社)に対して団体交渉を求める権利を持ち、会社はこれを正当な理由なく拒否できません(労働組合法7条2号)。退職代行の文脈では、依頼者が組合に加入した上で、組合が会社との交渉を行う、という形をとることで、有給消化や未払金などについての交渉が適法に行えます。
ただし、団体交渉は「労使交渉」の枠組みであり、訴訟などの法的手続きまでは対応できません。それが必要なケースは弁護士に依頼することになります。
弁護士(法律事務所)が対応できる範囲
弁護士または弁護士法人が運営するサービスは、弁護士法72条の適用外であるため、伝達・交渉にとどまらず、訴訟などの法的手続きまで対応できます。未払い賃金の請求、ハラスメントの慰謝料交渉、解雇が絡む場合の対応など、争いになりそうなケースでは弁護士に相談するのが最も確実といえます。
結論:サービス自体は違法ではないが、業者選びが重要
退職代行サービスを利用すること自体は違法ではありません。ただし、次の点に注意が必要です。
- 民間業者が「交渉」まで行う場合、弁護士法72条(非弁行為)に抵触するおそれがある
- 非弁行為の疑いがある業者を選んだ場合、トラブル時に十分な対応ができず、途中で対応が止まるリスクもある
- 有給消化・未払金・ハラスメント対応など「交渉」が必要な状況では、労働組合または弁護士運営のサービスを選ぶことが重要
選び方の具体的な手順については退職代行の選び方をご覧ください。