未払いの給料・残業代がある状態で退職代行は使える?対応範囲を表で整理
2026-08-27 執筆
「サービス残業の分が払われていない」「最後の月の給料が振り込まれるか不安」——未払いのお金を抱えたまま辞めたいとき、退職代行に頼めばまとめて解決するのだろうか、と考える方は少なくありません。ここで大きく効いてくるのが、退職代行の運営主体による対応範囲の違いです。この記事では、未払い賃金がある場合に「どこまでが伝達で、どこからが交渉になるのか」を表で整理します。特定の業者をおすすめするものではなく、依頼先を選ぶときの判断材料をそろえることを目的としています。
1. 頼みたい内容別——運営主体でできることが変わる
退職代行は「どこに頼んでも同じ」ではありません。未払い賃金がからむ場面では、その差がはっきり出ます。まず、依頼したい内容ごとに整理した表を見てください。
| 頼みたい内容 | 民間企業 | 労働組合 | 弁護士 |
|---|---|---|---|
| 退職の意思を会社へ伝える | できる | できる | できる |
| 「未払い分を払ってほしい」と会社と話し合う | できない | 団体交渉として可能 | できる |
| 有給の消化について会社と話し合う | できない | 団体交渉として可能 | できる |
| 支払われない場合に訴訟・法的手続きへ進む | できない | できない | できる |
分かれ目は「交渉」です。弁護士でない者が報酬を得て法律に関わる交渉を行うことは、弁護士法72条が禁じる非弁行為(ひべんこうい)にあたるおそれがあります。そのため民間企業が運営する退職代行は、退職の意思を伝えることはできても、未払い分の支払いを求めて会社と話し合うことはできません。
労働組合が運営するサービスは、憲法・労働組合法で認められた団体交渉権を根拠に、未払金や有給消化について会社と交渉できます。ただし、交渉がまとまらず裁判等に進む段階の対応は弁護士の領域です。3つの運営主体の違いは労働組合と弁護士、民間は何が違う?で詳しく整理しています。
2. 「未払い」と一口に言っても中身が違う
未払いといっても、性質はさまざまです。自分のケースがどれなのかを分けておくと、依頼するときの説明がスムーズになります。
| 種類 | どんなものか | 確認しておく手がかり |
|---|---|---|
| 最後の月の給料 | 働いた分の賃金で、退職後も支払日に支払われるのが原則 | 就業規則・給与規程の締め日と支払日 |
| 残業代・深夜手当 | 労働時間に対して支払われるべき割増賃金 | タイムカード・勤怠記録・業務用チャットの履歴 |
| 有給の未消化分 | 退職前に消化するか、会社が買い取るかは扱いが異なる | 給与明細の有給残日数 |
| 退職金 | 法律で一律に義務づけられたものではなく、規程がある場合に支払われる | 退職金規程の有無と支給条件 |
とくに退職金は「必ずもらえるもの」ではなく、会社に退職金制度がある場合に、その規程に沿って支払われるものです。まずは規程の有無を確認するところから始めるとよいでしょう。有給の扱いについては退職代行で有給は取れる?もあわせてご覧ください。
3. 依頼する前にそろえておきたい記録
未払い分の話し合いは、「働いた事実」と「支払われていない事実」を示せるかどうかが土台になります。退職代行に依頼すると会社とのやり取りが自分の手を離れるため、会社に置いたままの資料は取り出しにくくなります。依頼前に手元にそろえておくと安心です。
| そろえておくもの | 役割 |
|---|---|
| 雇用契約書・労働条件通知書 | 賃金の決め方や所定労働時間を確認する |
| 給与明細(できれば数か月分) | 実際に支払われた金額と有給残日数を確認する |
| 勤怠記録・タイムカードの控え | 働いた時間を示す |
| 業務用のメール・チャットの履歴 | 始業・終業の時刻や業務指示の記録として残る場合がある |
| 就業規則・給与規程・退職金規程 | 支払日や支給条件のルールを確認する |
会社から貸与されたパソコンやスマートフォンの中にしかない記録は、退職後は見られなくなるのが通常です。私物の端末に自分の労働時間のメモを残しておくなど、無理のない範囲で控えを取っておくと後の説明がしやすくなります。
4. 時効——放置すると請求できる期間には限りがある
賃金の請求権には時効があります。一般論として、労働基準法115条の定めにより、賃金の請求権の消滅時効は現在のところ当面3年とされています(2020年4月の改正で2年から延長され、経過措置として当面3年とされているもの)。退職金についてはこれとは別に5年とされています。
細かい起算点や、自分のケースがどう扱われるかは個別性が高いため、ここは一般論として理解してください。「いつかそのうち」と考えているうちに期間が過ぎてしまうこともあるため、未払い分が大きい場合は早めに相談先を決めるのが現実的です。
5. 未払い分をどうしたいかで、依頼先の絞り方が変わる
整理すると、依頼先の選び方は「未払い分について何を望むか」でおおよそ決まります。
| 望むこと | 向いている運営主体 |
|---|---|
| とにかく退職の意思だけ伝えたい。未払い分は自分で対応する、または請求しない | 民間企業・労働組合・弁護士のいずれでも対応できる範囲 |
| 有給を消化したい、未払い分の支払いを会社に求めたい | 労働組合または弁護士 |
| 会社が支払いを拒んだ場合に法的手続きまで視野に入れたい | 弁護士 |
なお、未払い分の請求を扱う場合、退職代行の基本料金とは別に費用が設定されていることがあります。金額や条件はサービスごとに異なるため、依頼前に必ず確認してください。
当サイトの業者データベースには21社を収録しており、うち会社との交渉に対応できると確認できたのは12社、訴訟等の法的手続きまで対応できると確認できたのは5社です(いずれも2026-08-06〜2026-09-18の公式サイト確認値)。運営主体から絞り込みたい場合は労働組合運営の一覧や弁護士運営の一覧から、料金順の客観情報を確認できます。
6. 公的な相談窓口という選択肢もある
未払い賃金の問題は、退職代行以外の窓口でも扱われています。各都道府県の労働局や労働基準監督署には総合労働相談コーナーが置かれており、無料で相談できます。会社が労働基準法に違反している疑いがある場合の申告先でもあります。退職の意思を伝える部分は退職代行に任せ、お金の問題は公的窓口や弁護士に相談する、という分け方も選択肢のひとつです。